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REDSPRESS EYES|「理想は大原サッカー場」。試行錯誤の6年間〜金武町フットボールセンター 芝物語〜|レッズプレス!!

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「理想は大原サッカー場」。試行錯誤の6年間〜金武町フットボールセンター 芝物語〜

沖縄キャンプで練習グラウンドとなっている金武町フットボールセンター。その芝管理会社の方に迫った。



(佐藤亮太)

沖縄・金武町フットボールセンターで約3週間、行われたトレーニングキャンプ。
現地での合宿取材は5年ぶり。金武町での取材は自身、初となった。
驚かされたのは青々とした天然芝のグラウンド。
大きめに広くとった1面のピッチで3週間、天候に左右されることなく、ハードなメニューがあっても、トレーニングマッチがあっても、変わることはなかった。

「何も言われないことが一番です」。そう話すのが、グラウンドを管理するGREEN FIELD OKINAWA伊藤卓(すぐる)さん。

合宿期間は伊藤さんにとって勝負の3週間だった。
※2016年2月のオープン時から芝を管理した伊藤さん。



翌17年2月、浦和レッズは金武町フットボールセンターで行うようになった。
伊藤さんはじゅうぶんな準備をしてきたはずだがチームスタッフの第一声に困惑した。

「ピッチが固いので、なんとかできませんか?」

「ピッチが固い?」
当時、伊藤さんはその本当の意味がわからなかった。

そのなか、唯一、残った言葉がある。
「とにかく大原に来てください」

この年の初夏。伊藤さんは大原サッカー場にむかった。
目の前に広がる青々とした芝。一歩、入った瞬間、伊藤さんは感じた。

「これだ」。

包み込むようなふわっと柔らかさがありながらそれでいて力強さがある。
「この芝を金武町で再現したい」
「目指せ、大原」
理想の芝に出会った。

だが、どんな作業をすればいいか。どのようにすれば近づけるのか。
大原の現場スタッフに説明を受けた。
しかし、アドバイスのやり方をそのままやっても再現できるわけではなく、当然、場所が違えば、やり方も違う。手がける人が違えば、仕上がる芝も違う。

見て覚えろ。感じて覚えろ。とにかく、やってみろ。

理想の芝に近づける、伊藤さんの格闘が始まった。

金武町に戻った。まず行ったのは固い土壌を柔らかくすること。
時間をかけた分、改善された。すると芝の見栄えが気になる。
ならばと、見た目はまるでヨーロッパのような青々としたピッチに仕上げ、翌年、チームを出迎えた。

「これで大丈夫だろう」と自画自賛の出来だった。

しかし、返ってきた言葉はこうだった。

「ピッチが固い。それに滑る。なんとかできませんか?」

二の句が継げなかった。

いったいどうすればいいのか。
悩む伊藤さんに私淑する大原のグラウンドキーパーからの助言がいまも残っている。

「教えてくれたんですよ。見た目は関係ないって。選手はいろんなところで、いろんなスタジアムでプレーしている。でも選手は大半の時間を自分たちの練習場で過ごしている。ならば見た目の良いグラウンドじゃなくて、練習中、ケガをしないグラウンドを作ることが俺ら仕事だと。土壌がよくなれば、自然と芝は良くなるって。そこからですね、もっと勉強しようと思ったのは」

固いピッチはヒザ、足首などの関節系のケガだけでなく復帰に時間がかかる筋肉系のケガにつながる。ピッチの良し悪しは選手生命に、さらにチームの成績にも大きく左右する、いわば根幹にかかわる要素。

伊藤さんはより本気で芝と向きあった。

「沖縄では常識とされるやり方、それ以外の非常識な方法でやってきました」

時折、助言を仰ぎながら、大原あるいは良いとされるグラウンドに出向きながら、理想の芝に近づけた。

それでも数年間、浦和スタッフから「ことしも固いです。なんとかできませんか?」と言われるばかりだった。

「本当に浦和が金武町に来るのが怖かったです。また言われる。また固いと言われる。ホントにどうすればいいのかって」

キャンプが近づく毎年1月ごろ、伊藤さんは芝一面、全部枯れる夢を見るという。
それだけプレッシャーを感じていた。

根気強く。文字通り、試行錯誤を続けた結果、伊藤さんは強い手応えを掴んでいた。

「昨年は早く来て欲しいなと思っていました。早くみんなにピッチの感触を確かめてほしかった。実際、好評というか・・・なにも言われませんでした(笑)。ことしもいまのところ、言われていません」

あの衝撃を受けた柔らかくも力強い芝がいくらか再現できるようになった。

そしてなにより嬉しかったのは土田尚史スポーツダイレクターの言葉だった。

ことしの合宿でのこと。土田SDがふらりと作業場に現れ、こういった。

「大原サッカー場とそん色がなくなってきて、だんだん近づいているね」

「自然とテンションがあがりましたね」と伊藤さん。

ここ数年の取り組みが報われた瞬間だった。さらにケガ人なしで合宿が終えられたのは今回が初めて。ケガ人を出さないピッチがひとつの完成形をむかえた。

たしかに理想とする大原の芝に近づけた。しかし、あくまで「近づいただけ」と伊藤さん。

「まだ合格じゃないですね。ま〜いいんじゃないですかって感じだと思います。じゃ、ことしのクオリティで来年もできますか?と聞かれても『はい、たぶん・・・』としかいまは言えません」

ただ諦めていない。

この日も練習を見ている伊藤さんたちスタッフ。しかし眺めているわけではない。選手が滑らないかどうか、順調にプレーできているかを観察し、練習の合間、芝を補修する際に、選手が残したスパイク跡を見ながら、微調整している。

「この状態を1年中、大原はやっているんですから化け物グラウンドですよ、大原は(笑)。1年中は無理ですよ」。

繊細かつ難解。
正解のない奥深い芝の世界に伊藤さんたちは挑んでいる。
そしてまた来年のそのときにむけたあくなき準備は続く。

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