(佐藤亮太)
ことし7月、ニュージーランドとオーストラリアで共同開催されるFIFA 女子ワールドカップにむけて、なでしこジャパン候補の選手の横顔・人物像を知ってもらおうという趣旨でJFA主催のメディア向けオンライン会見が行われた。
数チームの選手が参加するなか、11日、三菱重工浦和レッズレディースDF清家貴子、MF猶本光の2選手が登場した。
メディア約30人。
1選手1時間におよぶオンライン会見の一部から紹介したい。
清家貴子といえば、1対1の強さ、抜き去るスピードを兼ね備えた力強い走力。
その走力を培ったのは、筑波大学在学中のこと。
清家は原口元気、三笘薫を指導した陸上の専門家に師事。
入学直後からスプリントや練習場近くにある坂道を使ったダッシュを繰り返し、走力を磨いた。
この年、2015年、清家は下部組織(2種登録)からトップ昇格したばかり。シーズン序盤は控えにまわったが、このトレーニングが早くも功を奏した。プレナスなでしこリーグ5節(4月26日)・ベガルタ仙台レディース戦以降、スタメンをつかんだ。
しかし、大きなアクシデントに遭う。
この年の10月下旬、練習中に右膝前十字靭帯断裂および右膝内側半月板損傷の大ケガを負った。
順調だっただけに相当なショックがあったと思われたが、清家のモットーは「なんとかなる」。
受傷直後、心配し声をかけた猶本光に清家は「どうせ治るから大丈夫です」と言い、そのポジティブさに呆れられたという。
ただ、ショックは完治したのちに訪れた。
「速く走れない感覚があり、(その感覚が)なかなか戻らず、きつかった」
バタバタと走る感触で重い感じがする、この違和感。その正体は何か。
清家は以前に比べ、足の接地時間が長いことに気が付いた。
接地時間を短くすべく、清家はこれまでのトレーニングに加え、ハードル、ジャンプのメニューにいそしみ、さらに「(大学施設内の)ジムに住んでいるんじゃないかと思われるくらい、トレーンングしていた」と話すほど筋トレに励み、相手に負けない、ケガに負けない身体作りをした。
すると、違和感は自然と抜けたという。
「走っている音自体が全然、違った」
「(走っていて)浮いている感じ」
ケガを経て、清家は特長である力強い走力を手にした。
この経験はのちに生かされた。
2020年皇后杯決勝 日テレ・ベレーザ戦で清家は左膝前十字靭帯損傷・全治8か月となったが、翌年9月、WEリーグ開幕戦で先発出場を果たした。
「より速く走れるようになった」と話すように、1度目のケガの経験を余すことなく生かし切った。
復帰当初は前半のみの出場だったが、コンディションがあがるのに比例し出場時間を伸ばし、なでしこジャパンに招集されるようになった。
もともとはFWだったが、森栄次監督時代は右サイドバック。最近は左サイドで起用される清家。
「相手選手を抜き去る楽しさがあり、スプリントで会場を沸かせるのは嬉しい」と走りにこだわる。
ただ昨年11年に招集されたスペイン遠征では世界との差を思い知らされた。
「(スペイン遠征では)国内ではスピードで勝っている選手が相手に抜き去られる姿を見るとショッキング。これが目指すべき場所」。
「ワールドカップでの三笘選手のように、ひとりで何人も抜き去り、打開できる選手が必要で現状、国内にはいない。そこを目指さないといけない」
この危機感の表れのひとつがシュートへの意識。
最近はアシストよりゴールにこだわっているという。
それを示すように今月8日、WEリーグ第8節 千葉戦(2−0)で清家は両チーム最多の7本のシュートを放っており、抑えていたFWの自我が見え隠れしている。
これまで不思議とワールドカップやオリンピックなでの大きな大会に縁がなかった。しかし、視野に入ってきた。
「一瞬、一瞬を大切にした結果、ここにいる。そのチャンスが手に届くところにあるのなら、それを目指さないわけにはいかない」
ワールドカップ開催まであと半年。抜き去り、決め切る選手に清家貴子はなる。・・・・・・