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インタビュー

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[女子]次なる舞台は指導者へ〜田尻有美が感じてきたこと

「REDSインタビュー」は、トップチームやレディースの選手、監督、スタッフ、関係者などのインタビューを掲載するコーナー。今回はレディースOGで、INAC神戸レオネッサをキャリアの最後に、今シーズン限りで選手生活から退き、すでに指導者の道に進んでいるGK田尻有美に話を聞いた。

(有賀久子)  

一切の手を抜かないということはレッズで教わった

RP:田尻選手、選手生活お疲れさまでした。なでしこリーグ1部の最終節で行われた引退セレモニーはとても素晴らしい姿でした。
田尻:はい。華々しく送り出していただけたので良かったです。

RP:セレモニーの時に着ていた『WE ラブTAJI』とプリントされたTシャツも印象的で。
田尻:サプライズで用意されていたので、私もビックリしました(笑)。

RP:今の心境から聞かせて下さい。
田尻:リーグの終盤に右手の小指を負傷して、完全にプレーが出来る状態で選手生活を終われなかったのですが、やり残したことはないですね。今までの経歴で言うと、レッズレディース、ノジマステラ神奈川相模原、そしてINAC神戸レオネッサと素晴らしい3チームに在籍させてもらいました。リーグ戦の出場は14試合だけでしたが、しっかりと出場することができました。いろいろな人に出会い、さまざまな経験もさせてもらいました。全く悔いはないです。

RP:現在の怪我(10月10日に負傷。右小指伸筋腱断裂で全治およそ3カ月)の状況は?
田尻:フルスイングのシュートは無理ですが、ちょっと抑えたシュートやキャッチはできるようになっています。

RP:改めてお聞きしますが、埼玉県出身の田尻選手は、いつからサッカーを始めたのでしょうか?
田尻:2002年の日韓共催でのワールドカップで、GKオリバー・カーン(元ドイツ代表)選手のことを見て、めちゃくちゃカッコ良いと思って、GKを志願して始めました(笑)。

RP:サッカーの原点となった草加遊馬キッカーズでは、男子も女子も一緒にプレーをしていたのですか?
田尻:基本は、男子でした。年末年始に遊びに行った時、1年生から6年生の女子が10人ぐらいに増えていてビックリしました。

RP:2005年、浦和レッズに女子サッカー部門が立ち上がり、レッズレディースの下部組織でプレーするようになるわけですが、トップ昇格時には、GK陣には山郷のぞみさんが在籍していましたよね。
田尻:1年間、一緒にプレーをさせてもらいました。今考えても、当時はこの上ない状況のなかでプレーしていましたね。サッカー選手としても、人としても、誰がどんな立場にいても自分の役割を全うするというか、一切の手を抜かないということはレッズで教わったと言っても過言ではないです。

RP:それぞれの役割があると言っても、試合のピッチに立つことができない立場というのは苦しい場面もあったかと思いますが、やり続けられたのはどういう想いがあったからですか?
田尻:大前提として、自分はサッカーが大好きなのです。あとは、周りの人にもめちゃくちゃ恵まれた人生だったと思います。自分がトップに昇格したタイミングでは、チームに山郷さん、ガンさん(荒川恵理子)、柳田(美幸)さんもいましたし、きょん(矢野喬子)さん、あこ(庭田亜樹子)さんとか、素晴らしいメンバーがいて、日頃の練習からプレーを見て学ばせてもらいました。2つ上には、藤田のぞみちゃんやナツキ(岸川奈津希)ちゃんとか、吉良知夏とか、1つ上には池田咲紀子とか、若いけれど、年代別代表など、バリバリと活躍している選手たちの努力している姿も見てきました。それぞれの在り方を見て、「ここまでやらなければいけないんだ」というのを、いろいろな人の、いろいろな立場や在り方を見て、「やらなければ」と自然に思った環境でした。今、このメンバーと一緒にやっていたことを考えたら、震えあがりますね(笑)。練習中はめちゃくちゃ怖いし。でも、練習が終わったら、全力でふざけているし(笑)。

RP:その中でノジマステラ神奈川相模原に新天地を求めて、レッズを退団しました。その決断が試合出場数を伸ばすなど、形となって良かったと思うことはありますか?
田尻:レッズにいた頃は、自分を知らない人も少ないし、自分が知らない人もいない状況でしたが、ノジマではイチから人間関係を作ること、社会人として働くことを教わりました。何人かは関東リーグで試合をして、顔を知ってはいたけれど、深くまで話したことがなかったのですよね。当時、菅野(将晃)さんが作るチームの雰囲気はとても良いと思いましたし、このチームに来られて良かったと思いました。人との関わりを教わったチームと言えます。ノジマでの3年間は、人生の中で良い経験になりました。

RP:これまでの経験をもとに、上を目指そうという子どもたちに、これから指導者として、いろいろな話ができますね。
田尻:そうですね。ベテランの選手ともプレーをしましたし、高校生なのにスタメンで出続ける選手ともプレーしましたし、いろいろな人の、いろいろな立場があるのだということを話せるので、自分にとって、それは強みだと思いますね。

RP:ここから先は伝える立場になりますが、どんな風に伝えていきたいと考えていますか?
田尻:U―15のコーチを務めるので、サッカー選手である前に、人としてしっかりとしないといけないということ、その上でサッカーを認めてもらえる努力をしなければいけないということを伝えたいですね。すでに中学1年生の指導に入っているのですが、選手としては、ベースの技術を上げていこうとずっと言っています。“止める・蹴る”の部分は、ずっとついて回るので。

RP:コーチ就任の声がかかった時、決断することにパワーは要りましたか?
田尻:いや、すぐに「はい!」という感じでした。

RP:一貫して変わらずに応援してくれるファンやサポーターの存在について。
田尻:今季はリーグ戦で浦和駒場スタジアムへ行くことはありませんでしたが、レッズレディースのサポーターの方は昨季、メンバー発表の時に拍手をしてくれて、今までレッズからノジマをはさんでいたとはいえ、INACへ移籍した選手はいないと思うので、どういう反応をされるのかって不安はあったのです。とてもホッとしたというか、自然に「帰ってきたな」という気持ちになりました。それが印象に残っています。

RP:さて、来季からWEリーグが始まり、子どもたちにとって、この先のこと、プロを思い描きながら練習を積むようになると思いますが、ここから何が大事になると思いますか?
田尻:自分が感じたのは、誰がどこで見ているのか分からないということ。たまたま見ていた人が、たとえば、INACの強化部長だったりだとか、サンフレッチェ広島の強化部長だったりで、その人が見ている時に、全力でプレーをしていて、チームを勝たせようとしているプレーをしていれば、それは絶対に目にとまるはずだと思います。だからこそ、常に全力で手を抜かないことが大事になってきます。いまの時代、プレーがSNSに載って「この子は誰だ?」となることだって考えられる。そうなったら最高だと思います。一瞬でも手を抜かないこと、瞬間を無駄にしないことが次のステップアップにつながると思っています。

RP:ノジマやINACに声をかけてもらった時、縁を感じましたか?
田尻:昔の話だから言うのですが、レッズを出ることが先に決まっていて、移籍先を探していた時に、自分の中で候補のひとつにノジマがあったのです。レディースのコーチに神戸(慎太郎)さんがいました。神戸さんと菅野さんに繋がりがあって、ノジマと練習試合が組まれた時、「よっしゃ!」と思っていました。チームメイトも、自分が外に出て行くことを分かっていたので、「この練習試合、頑張るね」と言ってくれました。その時の吉田(靖)監督も、自分を1本目に使ってくれました。普段から一生懸命にやっていたら、いざという時にみんなが力を貸してくれることを感じ、すごいことだと思いました。

RP:指導者というのは、いつ頃から頭にありましたか?
田尻:若い時から、いつか指導者になりたいと思っていました。教えることも好きですし、分析というか、プレーの1つ1つを切り取って「今のは、こうした方が良いのでは、とか、ここが良かった」など、細かい点を見ることが好きだったので、自然に指導者をやるのだろうなと思っていました(笑)。

RP:指導者の目で、近くにいた選手のことも見ていたのですか?
田尻:周りの選手のことを、ボールや相手を見ているタイミング、動き出しのタイミング、立っている場所が絶妙だとか、その目線で見ることが多くなってきたことも引退をした理由のひとつです。選手として「頑張ってやろう」という気持ちよりも、教える方が楽しいと思えてきました。WEリーグがスタートしても、この考え方やモチベーションでは無理だなと感じました。

RP:お話を伺っていると、サッカーを始めるキッカケも、指導者になろうと思ったキッカケも、田尻選手は自分自身の考えで進めていますね。サッカーが、それだけ好きだったのですね。
田尻:以前は、何ならバスケットボールの方がカッコいいと思っていましたが、オリバー・カーンの存在でこうなりました。オリバー・カーンを見て「この人、すごいな」と。こういう風にやってみたいと思いました。

RP:現役中は、この選手が凄いとアップデートされていましたか?
田尻:ノイアーがすごいとかありましたが、やっぱり好きなのはオリバー・カーンでした(笑)。

RP:子どもたちに話す時、自分のストロングポイントは「ここだったよ」と挙げるとしたら、どんな部分ですか?
田尻:やはり、コーチングですかね。身長がもっとあったらとか、もう少しキックで飛距離を出せたらと思いましたが、でも、それを言っても変えられないじゃないですか。他の人と差をつけられるのはコーチングだと思いました。山郷さんの声を聞いたり、福元(美穂)さんの声も参考にしていました。

RP:レッズでキャリアをスタートさせましたが、レディースチームを支えるサポーターにむけてメッセージをお願いします。
田尻:レッズレディースには、青春のすべてを捧げたと言っても過言ではないし、仲間もそうですが、応援してもらえることがパワーになるということを感じたのは、レッズレディースだったからだと思います。ノジマへ行っても、INACへ行っても、サポーターを大切にしなければいけないと思えたのは、私のキャリアがレッズから始まったからです。今季は、レッズレディースがリーグで優勝しました。メンバーを見ていると、今回の優勝は、下部組織から一緒にプレーしていた選手たちが中心となっていたので感慨深いものがありました。あんなに逞しくなって、と(笑)。これからは指導者として、日本の女子サッカー界に貢献して盛り上げていきたいと思います。

RP:今日はありがとうございました。
田尻:ありがとうございました。


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