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ツヅキック(都築龍太の試合分析)

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最終的な質の違いが顕著に見られた試合。見習う点や差は…(親善試合・パリSG戦)

浦和レッズで活躍された元日本代表GK都築龍太さんが試合を解説。聞き手は、サッカー専門新聞『エルゴラッソ』の沖永雄一郎記者です。


RP:7月23日(土)に埼玉スタジアム2002で行われたプレシーズンマッチ、パリ・サン=ジェルマン ジャパンツアー2022は0−3でレッズが敗れました。

都築:今回は親善試合ということもあって、シビアな話というか、普段のような話し方よりも総論みたいな感じのほうが良いのかな。(親善試合の)よくあるパターンの展開だったなと思いましたね。

お互い中盤がゆるくて、ゴール前まで運べる展開が多く見られました。中盤のプレッシャーがゆるいという、親善試合特有の部分はありましたね。そこをレッズもうまくつかってというか、さすがにパリよりも質は低かったと思いますが、良いチャンスを作れていた部分もありました。ただ最終的な質の違いが顕著に見られた試合でした。

僕たちが『さいたまシティカップ』でマンチェスターユナイテッドやバイエルンと試合をしたときも、そういった面はありましたね。やっぱり親善試合なので、極力ケガしないように中盤でのコンタクトは少なくなります。

パリとガンバとの試合も見ましたが、面白味を出すためにゴール前でいかに勝負できる状況を作り出すかという感じだったと思います。そこでスイッチが入ったときの、パリの質、個人の能力はレベルが高かったですね。

レッズも松尾佑介選手が抜け出したシーンなどがあって、ああいうところで決めきるのが大事なのですが、最後はお互い厳しく守備をしていました。最後の足を出すところ球際ではやっぱり、パリSGは能力が高かったですね。

ただそこに至るまでの形は何本か作れていたので、ここ何試合か見れてる攻撃の形が継続されたのかなと思います。そこは非常によかったですね。勝負が決まったのは、バイタルエリアでのレッズの守備でした。

パリSGの質が高かったので持ちこたえられなかったですし、スイッチの入れ方や崩し方をよく知っていますね。キリアン・エムバペなどはその武器をうまく使うサッカーをしていました。10回やって2、3回勝てればいいほうかなという展開でした。

特に崩しのところは見習う部分が多かったと思います。左サイドで上手く使っていて、エムバペなどがカットインすることろとクロスを上げるところのチャンスの作り方が、ここ数試合はレッズもできていた部分です。ただ崩しの質は個人の能力が出るのかなと思いましたね。

見ていても、例えばレッズがエムバペに仕掛けられたら120%で守備するところを、向こうは個人で勝てる質を持っている。人が引き出されてフリーになることがない。小泉佳穂選手が左からのクロスに合わせたような、ああいうマークを外してくれるチャンスはあまりなかったですね。

逆に、ああいう局面でエムバペが持ったときに、レッズの選手は何人が対応しに行っていましたかね…? 最低でも3人くらいは行っていたので、そうなると空いてくる選手が出てきます。個人のクオリティの差がありましたね。

それが得点シーンにも出ていて、特に2点目は二人で崩したシーンでした。エムバペが受けたときのトラップの質も高かったですよね。体だけで相手を置き去りにできます。最後の シュートも、GKからするといちばん嫌なコースでした。

RP:最初の失点のほうはいかがですか?

都築:ミスというか、あそこでダヴィド・モーベルグ選手にあのボールを当てる必要があったのかなというのはあります。7:3くらいで負けるボールを入れてカウンターを食らうリスクを取る必要はあるのかなとは思いました。

ガンバの試合もそうでしたが、ああいうミスを絶対に見逃さないですよね。勝負どころのプレッシャーも早いですし、そういったところが見習う点ですし、差になってきます。得点シーン以外は6〜7割でプレーしていたんじゃないかとも思いますね。だけどそういった経験は必要ですし、グラウンドで戦ってみないと一瞬の差などがわからないですから。

パスの質など、親善試合とはいえ勝負のところは質高くやってきますから、見応えもあったと思います。レッズのほうも、最後は個で抑えられてしまいましたが、伊藤敦樹選手のミドルやそこに至るまでの組み立てなど、できていた部分もありましたから、そこは非常によかったと思います。

RP:後半のレッズはメンバーを大きく代えました。

都築:アグレッシブに行くところは見えましたね。馬渡和彰選手のシュートがいちばん決定的なシーンだったと思いますが、そこに至るプレーも継続してできています。ただ、あからさまに酒井宏樹選手は攻め上がれなかったですね。相手がああいうポジション取りをしてくると長所が消されますし、そういった差を選手がどう感じて埋めていくか、意識の問題だと思いますし、良い経験になったと思います。

フィードバックしてチームの質をどれだけ上げられるか。特に後半出た選手、松崎快選手は感じたと思いますが、「これぐらいでいけるかな」という、ちょっと軽いなと思ってしまうプレーをしていたと思います。

やっぱり体を全部使ってでも奪われないとか、小柄の選手ですからそういったところも必要になります。良い経験だったと思いますし、意識だけでいきなり変わるものではないですけど、徐々にいかせるようにしていかないと、本当にただの親善試合で終わってしまいますから。

僕たちもこういった海外のチームとの試合をやりましたけど、意外とモチベーションは低いんですよね(笑)。その中でも戦うところは戦って、やられるところはやられましたが、悪い経験ではなかったです。

あとは個人の質、スキルをどこまで上げていくか、レッズだけの問題ではなくて日本全体の問題ですからね。こういったことをJリーグでは経験できないから、海外へ行くという目標も持つようになっていきますので。ただ、個々の局面で言えば、良いシーンもたくさんあったと思います。なかなか簡単に点は取らせてくれませんが

RP:モチベーションが低かったというのは意外でしたが。

都築:やっぱり、この試合がなければオフじゃないですか。これは僕だけかもしれませんが(笑)。今の選手たちはモチベーション高くやれていると思いますが、僕らの時は、それよりもリーグ戦が大事というのもありました。

マンチェスターとの試合は、向こうがユニフォームのお披露目ということもあって、レッズのホームなのにアウェイのユニフォームを着たこともありましたね(笑)。サポーターが怒ってましたが、まあお祭りですから…。

ただやっぱり、最初は「この試合がなければ休みなのにな」と思っていましたけど、実際にピッチに立つと気持ちが上がりますよね。相手はシーズン前で調整、こっちはリーグ真っ只中でコンディションの差もあるので、本当なら日本のチームが勝たないといけない。

僕らがマンチェスターユナイテッドとやったときは負けませんでしたが(笑)。そういったことを思い出しながら見ていましたね。(パリは)ケガしないようにプレーしているなとは感じました。

そんな中、ブライアン・リンセン選手はケガをしてしまって…。あのヒールキックは危ないなとは思いましたが。ただ、その前の動き出しなどはうまかった。次に見せてもらえるのは回復してからになるでしょうね。あとはモーベルグ選手も、さすがにこの相手では通用しないのかな。初めて対戦する相手はやり辛いはずなのですが、かなり対応されていました。

それも含めて、対戦して感じたことを生かしていかないと、ほんとの親善試合になってしまいます。いまの選手たちは意識が高いですから、生かしてくれると思いますが。またリーグ戦に戻りますが、良い流れを継続するためにも、試合はしておいたほうがいいですから。そういう意味でも意義のある試合だったと思います。

RP:ありがとうございました。

(サッカー専門新聞『エルゴラッソ』沖永雄一郎記者)
 
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都築龍太 -profile-
1978年4月18日生まれ。
2003年にガンバ大阪から浦和レッズへ加入。2010年に湘南ベルマーレへ期限付き移籍後、現役を引退。日本代表としても6試合に出場した。

(c)REDS PRESS