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[REDSインタビュー]野崎雅也のスペイン便り・前編「こだわってスペインに行った」

「REDSインタビュー」は、トップチームやレディースの選手、監督、スタッフ、関係者などのインタビューを掲載するコーナー。
今回は浦和レッズのユース出身で2012年から14年まで所属(14年は福岡に期限追遺跡)し、現在、スペイン5部に所属する野崎雅也にこれまでの経緯などをことし3月、ビデオ通話アプリ「Zoom」を使い、インタビューを行った。


(佐藤亮太)

野崎雅也のスペイン便り・前編

RP:スペイン5部 ウニフィカシオン・ジェフィアCFに所属した経緯を教えて下さい。
野崎:2018年にJFLラインメール青森に加入しましたが、その年、契約満了になりました。そのタイミングでスペインへ行くことを決め、おととしの夏、一度、スペイン行きを試みました。その時はマドリーへ行き、チームが決まりそうだったのですが、監督が解任になり、加えてビザの関係もあって、結局、白紙になってしまいました。良い雰囲気のチームだったので、残念でした。1カ月ほど滞在しましたが、断念しました。

帰国後、兄・桂太が在籍した埼玉県社会人リーグ2部所属のラスタサッカーファミリーに加入して、再びスペインへ行くまでの間、練習や試合、コンディション調整しました。チームに半年ほど所属させてもらい、去年2020年8月、バルセロナに来ました。本当はもっと早い段階、2019年の冬あたりにはスペインへ行きたかったのですが、この時、骨折してしまい、全治3カ月。ようやく復帰したものの、今度は新型コロナウイルスが猛威をふるうようになり、合わせて半年間、再挑戦するタイミングから延びてしまいました。でも、入国したあとも、こちらのリーグが止まってしまったので、なかなか契約まで至りませんでした。その後に契約できたチームでも、コロナによる経営難で、トップチームの5人の選手を解雇することになって、1試合も出ることなく、僕は契約解除の対象になってしまいました。そんなこんなで、また違うチームに練習参加して、ようやく現在のチームに決まりました。

RP:不思議だったのは、数多くの国や地域がある中で、なぜ、スペインだったのかということです。
野崎:スペインにはこだわっていました。海外リーグでプレーする日本人選手がいますが、目的によって行く場所は変わってきます。たとえば、お金を稼ぐのであれば、東南アジア。日本人選手の価値は高いですし、実際、給料も良いと聞いています。また、ドイツだと重宝がられていますし、行きやすい環境であり、プレースタイルです。では、なぜ、自分はスペインなのか?まず、1つの理由は、僕がサッカーを好きになったキッカケがグアルディオラのいたバルセロナだったからです。当時、在籍したシャビに憧れて、あの時代、チームがものすごく強かったので。僕にとって、青春でした。

もう1つ。日本と逆の価値観を持った国というか、今までからは考えられないような国に行きたかったからです。ドイツよりもスペインの方がノリで生きている、と感じます。もう1つ。ワールドカップを見ていると、スペインだけ、やっているサッカーが違うな、と僕の目からは見えました。現在の戦術のトレンドから言いますと、ドイツやイングランドの方が、もしかするとレベルが高いかもしれませんが、やっているサッカーはスペインが一番、好きです。そのスペインサッカーを学びたかったので、他の国の選択肢はありませんでした。スペインサッカーに思うこともありますし、外から見て、日本のサッカーを顧みることもあります。

RP:スペインに導かれたような印象ですが。
野崎:いや、どうですかね。今、スペインに住んでいますが、一番興味があるのは、アメリカです。アメリカは、スポーツをエンターテインメントにしています。その力がすごいな、と。そこは、スペインとはアプローチが違っています。スペインでは、街のクラブが愛されていますが、アメリカは全体で盛り上がっています。お金を生み出して、人が来て、ということを学ぶには、アメリカが一番良いのではないか、と。そうしたことにも興味があります。でも、スペインにいることに全く後悔はないです。

RP:今、所属しているチームについてお聞きしたいのですが、チームの雰囲気や環境はいかがですか?
野崎:今のチームが所属するスペイン5部は地域リーグなので、相当、上にいかないと全国リーグで戦えません。(範囲は)JFLほど全国を飛び回るほどではないですが、関東圏内で戦うイメージです。(距離的にはアウェイは)車で、1時間で行ける場所にあります。それがひとつ上のカテゴリーになると、少し範囲が広くなっていきます。規模はコンパクトな分、チーム数が多く、練習場やスタジアムがたくさんあります。なので、サッカーで成り立っているというか、スペインはサッカーが文化になっているな、と改めて感じます。

RP:チームメイトは、どんな選手がいますか?
野崎:基本、みんな仕事をしています。プロとしてサッカーだけでメシが食えるのは相当、上のカテゴリーじゃないと無理だよ、と言われました。日本ではカテゴリーが下でもお金のあるクラブはありますが、バルセロナのようなクラブは別として、スペイン全体としてお金はありません。生活していて感じるのは、稼ぐ気がないですし、実際、持っていません。たとえば、かき入れ時のはずの日曜日、大きな店はやっていますが、カフェやバルは閉まっています。良い意味でも悪い意味でも、今を生きている、と感じます。日本の場合、いざ、という時に備えてお金を蓄えますが、スペインでは、お金を貯めたところで、いつ使うの?という発想です。

RP:野崎選手自身、サッカー以外の時間はどう過ごしていますか?
野崎:午前中、語学学校へ行って、午後はカフェにこもって勉強したり、本を読んだり。練習時間は20時から21時半までで、18時くらいから軽食などを食べて、練習場に移動します。19時20分くらいから、アップ→練習→22時半頃に帰宅、という流れです。

RP:かなり長く練習するのですね。練習前、練習後に時間をかけているのでしょうか?
野崎:ほかのチームメイトですが、そうした前後はないですよ。練習5分前に来て、着替えをして、練習して終わって、すぐに帰ります。日本では考えられない。準備、アップ、一切なしです。スペインでの練習の考え方は、アップも含めてトレーニングなので、その前にやる必要ないという考えですね。また、日本だと土曜日に試合があると、翌日には練習試合がありますが、スペインではありません。1週間で、90分だけ。また15分だけ出た選手は、その15分だけで、他に何もないです。スペインは、サッカーを大切にしている国ですが、同時にサッカーだけじゃない、人生も楽しんでいる国。家族との時間を大事にしています。サッカーは超好き。でも、サッカー以外も、超大事!という生き方に共感しています。でも、自分からは「練習前、準備運動はしたほうが良いよ」とは言っています(笑)。案の定、ケガ人が多くいます。でも、それもまた、面白いです。年齢的には若いチームで、最年長が42歳で、僕は上から数えて5番目以内ですね。同い歳の選手が1人います。下は18歳で1番多い層は22、23歳。日本で言うと、大卒選手くらいですかね。勢いに乗ったら、強いチームかもしれません。

RP:野崎選手はSNSやブログで発信していますが、文面から読書家かな、と思うのですが、何かキッカケがありますか?
野崎:ラインメール青森を契約満了になってからの2年ほどで、150冊から200冊くらいの本を読みました。ジャンルは科学や宗教、哲学も読みます。小説はあまり読みませんが、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」は読みました。坂本龍馬の生き方は、自分のモデルになる、参考になると読みました。また、本のなかに出てきた知らないことや作者のことを掘ったりしました。この1年半くらい、考えなくちゃいけないと思うテーマがあります。それは、「価値観と正義」について。たとえば、昔話の桃太郎では、鬼ヶ島に行った桃太郎が絶対正義と思われますが、退治された鬼の子供からしたら、桃太郎は絶対悪だと思います。つまり、立ち位置で価値観は変わるということで、「こうじゃなければいけない」とか「正義は絶対に正しい」とか、それは本当なのかと疑問を持ったり、深く考えたりすることがテーマで、その最たるものが日本の外に出る、ということにつながっています。それはサッカーにもあると思っています。日本サッカー界としては、ヨーロッパなどサッカー先進国に勝ちに行きたい。では、どのようにすれば勝てるのか。サッカーをやっている人間としてはあります。そのためには、ならば、逆の方から見ないと物事を正しく捉えることが出来ないんじゃないか、と感じています。もう1つは、自分1人で海外に行っているのはもったいないな、と。行きたくてもスペインへ行くことは難しい中で、僕から発信していきたいと思いました。スペインへ留学できなくても、発信したモノを何となく読んで、分かってくれれば、と思います。将来、どのようになるかは分かりませんが、何でも自分の学びに繋がっています。スペインのサッカーはこのような文化だから、このような特色のある人がプレーするから、このようなサッカーになる、というのはあるので、それらを踏まえて、日本サッカーはどんな選択をすればいいのか?を学んで、哲学にしたいです。物事を疑うこと。考え直し続けないと発展はない。サッカーでいえば、攻撃は本当に攻撃なの?というところから疑っていかなければ、と思います。サッカー人としての夢は「サッカーと言えば、日本だよね」と言われること。そのために、自分にも何か出来ることはあるんじゃないか、と意識しています。あとJ1から、J2、J3、JFLと経験した上で、スペインサッカーに飛び込んだ選手はなかなかいません。願わくは、浦和レッズにずっといたかったのですが、今の人生も悪くないです。僕のような選手がいても良いんじゃないか、と。さまざまな経験をしたのならば、今度は、その経験を伝えていきたいです。

写真提供 野崎雅也選手

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