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REDSインタビュー

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恩師・中野雄二監督(流通経済大学)に聞く伊藤敦樹の躍進

「REDSインタビュー」は、トップチームやレディースの選手、監督、スタッフ、関係者などのインタビューを掲載するコーナー。今回は宇賀神友弥や武藤雄樹を指導し、今季から加入した伊藤敦樹選手の恩師である中野雄二監督に話を聞いた。


(石田達也)

「下級生のときは自分の才能に気づいていなかった」
「本当の意味での中心になれるように頑張って欲しい」



今シーズン、流通経済大学から浦和レッズに加入した伊藤敦樹。ここまで公式戦14試合(4月27日現在)に出場し、今やチームの中盤になくてはならい存在にまでなっている。
彼は浦和の下部組織出身。トップチームへの昇格を果たなかったが、大学サッカー界きっての名将・中野雄二監督の下で、技術面や精神面を鍛え上げ、自らの手で道を切り開き、自身の夢であった場所に帰ってきた。

今回のインタビューでは、大学での4年間、伊藤の才能を開花させた恩師・中野監督に話を聞き、流通経済大学サッカー部の強さの秘密や伊藤の成長に迫った。


RP:まず流経大と言えば、これまで数多くのプロサッカー選手を輩出していますが、現在の部員数やグループ数を教えてください。

中野:部員は約230名。トップチームを中心に7チームが平等に囲んでいる形です。どこからでもストレートにトップチームに上がれる仕組みです。例えば1年生でも試合で良い結果を出したという報告が上がってくればトップチームに呼びます。そこで活躍し試合に出場する、レギュラーに定着をする。他の選手は自分も続けてと狙っていく。プロのような競争原理の中で生き抜くことを目指しています。どのグループにいても可能性があるので全員が一生懸命にやっていますし幽霊部員はいません。僕が選手全員を見られる訳ではないので10名の信頼するコーチと密なコミュニケーションを取っています。

また、サッカー部は全寮制をとっており、昔の体育会にありそうな独特のモノはありません。今は先輩にたいしても「●●ちゃんや●君づけ」ですよ(笑)。逆を言えば兄弟が増えているような感じで大家族になるメリットがあります。そして週4日は僕が部員の朝ご飯を作っています(笑)。「なぜか?」と言えば全員の顔を見られるからです。

RP:スカウティング、セレクション等について教えていただけますか?
中野:セレクションは年数回実施しています。うちは実績を求めていません。100名近くうちからJリーガーを輩出していますが鳴り物入りできた選手はいません。良い選手はうちに来ません。歴史やネームバリューで比較されてしまい流経大には来てくれません。その中で将来性のある子や、成長曲線が遅い子をスカウティングしています。うちのスカウトの方がJ関係者より良く見ていると思いますよ(笑)。

RP:指導する中で大事にしている哲学はありますか?
中野:誰にも平等にチャンスは巡ってきます。その時のために準備をしているか。僕が最初にきたころは、ここにはグラウンドも寮もありませんでした。ただ与えられた条件で結果を出さなければ次のステージはないというつもりでやってきました。与えられた条件の中で結果を出すことを貫いてきたことで今があります。

RP:学生の自主性を大事にする点については、どんな部分を大事にしていますか?
中野:サッカーは自由ですが、人としての在り方について私はうるさいですよ(笑)。社会人としてのルールを守ることを大事にさせます。
「流経大のスタイルは?」とよく聞かれますが、うちにスタイルはありません。早稲田大学や筑波大学ように誘っても学生は来てくれませんし、育てるしかありません。将来性のある子をどう伸ばすか。そこを大事にしています。プロ志向の強い子が挫折を経験した時に、何もできなくなる子がいます。だから「サッカー馬鹿になるな」と言っています。

RP:その中、今シーズンは大学リーグでは優勝候補に挙げられていると思いますが、どんな特長をもったチームなのですか?
中野:Jリーグで言えば川崎フロンターレのようなチームです。昨年は2部でしたが22試合で65得点を取りました。1試合あたりの得点率は、うちの方が高い。前からガンガン取りに行きますし、現段階で未発表を含め7人のJ内定者がいます。リーグ戦スタートは1分1敗ですが、僕の中では優勝できるチームだと思っていますし、タイトルを全部取れるようなチームです。
人間は欲があるので、僕は正直に言いますが全タイトルを取りたいと思っています。僕が思うのはイエローカードなしで優勝したい。これまでフェアプレー賞を10回ほど取っています。優勝を成し遂げることは一人ではできません。それを理解する学生・仲間が理解してくれなければいけません。周りのチームにも「こいつら素晴らしい」と言われるチャンピオンになりたいと思っています。

RP:中野監督の指導力には定評以上のものがありますね。
中野:スタイルがないことが流経大ですし、パターン化をしていたら、今の倍のタイトルを取っていると思いますが、それはでは何の意味もありません。勝つことが重要でなくてプロセスや成長が重要だと思っています。

2021シーズンがスタートする前の伊藤には2つの目標があった。「開幕スタメン」と「埼スタのピッチに立つこと」。それを見事に成し遂げ、リカルド ロドリゲス監督の目指すポジショナルサッカーに順応し、ポテンシャルの高さを見せている。
「戦術理解度のところや頭をつかうところは自分の特長」(伊藤)。
今や新生レッズを象徴する選手でもあり、チームの鍵を握る一人でもあるが、彼の分岐点はどこにあったのだろうか。

RP:伊藤の入学当初ですが、彼はどういった学生だったのでしょうか?
中野:クールな感じで大人しかった。レッズユースでもバリバリのレギュラーではなく途中交代が多かったと思います。基本技術は高いのですが、欲もなく、淡々とやっている印象でした。下級生の時はまだ自分の才能に気づいてないというか、ずっと中心で注目をされていた訳ではないので疑心暗鬼になっていた感じですね。伊藤については、良い評価をすれば落ち着いていますが、悪く言えば新人っぽくはない。ポンテからも将来的にはポルトガルに連れていきたいと言われましたし、見る人が見れば有望な選手だったと思いますよ。

RP:特にプレー面での課題はどんなところにありましたか?
中野:攻守の切り替えが遅かったですし、オフェンス面でボール扱いが上手かったので球を単に捌いている選手でした。厳しさや激しさというよりあっさりですね。

RP:その彼が一番の成長曲線を描いたと感じたのは、いつ頃でしょうか?
中野:そうですね。彼が4年生のとき、天皇杯の茨城大会決勝戦で筑波大学に負けたときですね。JFA・Jリーグ特別指定選手に認定をされていたことで試合後には「レッズ側で練習をさせて試合に出させたい」という話があり、試合会場にはレッズの強化部とスカウトが迎えにきていました。試合は流経大がシュート26本、筑波8本。押していたにも関わらず1−2で負けてしまいました。2失点目で伊藤のポジショニングが悪く、それが決勝点に。ロッカールームに帰った時に、あいつが泣きながら「自分はキャプテンとして情けない。このチームのキャプテンとして、仲間と一緒にここで成長し、しっかりとした自分を見せたい」と訴えてきました。本人が大学で練習したいと言ってきたのでレッズには断りを入れ、そこから本人は目の色が変わりましたね。それまでレッズが主であって、大学は主ではないという気持ちになっていた部分もあったかと思いますが、ぐっとそこから変わりました。

RP:伊藤にキャプテンを任せてみようと思ったのはどういった理由があるのでしょうか?
中野:中心になるということは自分が一番評価されていることにつながります。チームがどう科学反応をするかを任せた部分はありますし、後輩たちも慕っていたので良いバランスだったと思います。

RP:中野監督はセンターバックで使っていたと思います。今、伊藤はチームの[4−1−4−1]の布陣だとインサイドハーフに構えることが多いのですが、中野監督から見ての適性ポジションはどこになるのでしょうか?
中野:システムよりもレッズの監督が伊藤に何を求め、そこに置いているかだと思います。ただ本来はボランチですが、シャドー、トップ下、センターバックもできる子です。川崎Fの山村和也によく似ています。

RP:まだ数か月ですが、プロで活躍する姿を見てどう感じていますか?
中野:今のサッカーで言えばミドルサードでの組み立てやバランスは抜群。もう1つ突破でいうところの緩急のつけ方や強引さは、まだ体の線が細い。デュエルという面でのズルさがないと感じます。彼がどう捉えるか。ただゲームを読む力はあります。アジリティがもろい時もあるのでトレーニングを特化してやれば問題はないと思います。

RP:将来、どんなサッカー選手になって欲しいと思われていますか?
中野:全体を本当の意味で掌握できているかと言えばまだ足りません。ただポジションは中心ですし、どれぐらいのタイミングで出来るか。新人で落ち着いていますが世界にいけば、あの年齢で中心になっている選手はたくさんいます。だからこそ本当の意味での中心になれるように頑張って欲しいですね。

RP:伊藤選手のようにユースからトップチームに昇格できずにいた学生に対し、どんな思いで中野監督は向き合っているのでしょうか?
中野:挫折をした子の方が悔しさがあり、頑張ろうとします。うちの部員の傾向から個人的に言わせてもらうと、平均するとユースから来た子は伸びない子の方が多いと感じています。伊藤や宇賀神が伸びたのはユース時代にレギュラーではなかったから。ユース出身の子は1年生の時から優れた能力をもっているので試合に出られますが、数年後を見ると伸びていない傾向です。「俺の方が上手いのに」という不要なプライドが邪魔をするんです。
高体連出身で大学サッカーに進学した子は挫折感があると思います。18歳の時にJクラブから良い条件がきていれば大学に来ません。その悔しさをもった上で4年間、どうなりたいのか、何をすべきかを考えることが成長する上で大事なことだと思います。

RP:今日はありがとうございました。

(聞き手:レッズプレス!!ライター石田達也)

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