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REDSインタビュー

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インタビュー番外編・ゲルト・エンゲルス監督(INAC神戸レオネッサ監督)/サッカーの楽しさ、面白さをみんなで伝えることが大切

「REDSインタビュー」は、トップチームやレディースの選手、監督、スタッフ、関係者などのインタビューを掲載するコーナー。
今回は、浦和レッズで監督やコーチを務めたゲルト・エンゲルス氏が登場。今季、プレナスなでしこリーグ1部の代表格、INAC神戸レオネッサで監督を務めた。


(佐藤亮太)

RP:これまでJリーグ、モザンビーク代表監督として指揮を執ったゲルト・エンゲルス監督。今季、プレナスなでしこリーグ1部のINAC神戸レオネッサの監督に就任しました。キャリアでも初指揮となる女子チームの監督就任に驚きをもって受け止めたのですが、どのような経緯で監督になったのでしょうか?
エンゲルス監督:初めてINAC神戸の安本さん(安本卓史 執行役員社長)や高橋さん(高橋寿輝 強化育成部部長)に会った時にも、女子チームを初めて指揮することについてどう思うかを尋ねられましたが、率直に「面白いな」と感じていました。その後もミーティングの回数を重ねて、チームのことや歴史、サッカーの話をしているなかで、さらに面白いなと思い、オファーを受けました。一番、面白いなと思ったのは、今までのキャリアでやってことないこと、新しいことができると感じたからです。INAC神戸のチームキーワードである『NEW CHALLENGE』にも自分の気持ちが合っていました。このチームには、なでしこジャパンに選ばれる選手もたくさんいて、選手のレベルが高いことにもこだわりました。もっと強いチームができると思い、引き受けました。

RP:実際、指導した感想は?
エンゲルス監督:私が最初から伝えていたことがあります。それは男性、女性の違いはあるかもしれないが、「サッカーはサッカー。どこでも一緒」だということです。その気持ちは、今でも変わりません。今季を振り返ると優勝したかったですが、戦うなかで『NEW CHALLENGE』ができて、面白く、楽しいシーズンでした。ただ今季は、新型コロナウイルスの関係で特別な年になってしまい、難しくもあり、厳しいこともありました。そのため、チームに波はありました。それでも若い選手を起用するなかで、初めて代表に選ばれた選手も出てきて、チームのサッカーも変わりました。選手は意識高くプレーしてくれましたし、最終的に新しい経験ができて、面白いシーズンでした。

RP:なでしこリーグ全体の強さや改善点、世界との差など感じたものはありますか?
エンゲルス監督:日本の女子サッカーは世界の中で見ても強いと感じます。技術的、戦術的レベルは高いと思います。だからこそ、プレナスなでしこリーグは、クオリティの高い選手と一緒にプレーする、代表レベルの選手と戦う、クオリティの高いチームと戦う機会であり、面白かったですね。(リーグ全体が)完全にプロではありませんが、練習への取り組みなどを見ても意識の高さがあります。それは、最初の練習から感じました。また、3月に開催した『2020 SheBelievesCup』や、女子のヨーロッパチャンピオンズリーグを見ていると、日本は技術的には絶対に負けていません。でも、世界は、特にフィジカルが強く、そこは日本との差を感じています。特にパワーとスピードに関しては、ヨーロッパ、アメリカがさらに伸びた印象があります。フランスリーグのオリンピック・リヨンではDF熊谷紗希が活躍していますが、これからはヨーロッパでのプレー経験だけではなく、国際試合の経験もより必要だと思います。

RP:女子サッカーは見ている人に伝えやすい、伝わりやすい競技だと感じているのですが。
エンゲルス監督:おっしゃることは分かりますが、それは男子サッカーも同じだと思います。違う競技で挙げると、そうした違いはあるかと思いますが。たとえば、テニス。僕は昔、テニスをしていましたが、女子テニスのほうが見やすく、面白いなと感じることがあります。たまにですが、男子テニスはパワーだけになってしまうこともあります。女子は、技術プラス、持っているパワーで戦います。男子テニスは技術面が、女子テニスにはパワーやフィジカルがもう少しあればと思いますが、それぞれプラスとなる特長やマイナスとなる欠点があり、それぞれにはバランスがあります。これは、横浜フリューゲルス時代の話になるのですが、当時、チームにはジーニョやセザール・サンパイオといったブラジル籍の選手がいました。私が彼らに「イタリアのサッカーは面白い」と話したら、2人は「(イタリアのサッカーは)走って、1対1になって、蹴るだけでしょ」と話していました。サッカーには、そうした文化の違いもありますね。今は、世界のどのリーグでもフィジカルが高くないと通用しませんが、(中でも)技術を重視していたブラジル籍の選手にとっては、当時、ヨーロッパのチームで戦うことで、フィジカルに加えて戦術理解度を高めていました。また、ヨーロッパのチームのアカデミーでは、テクニックを大事にして指導しています。ドイツは以前、ファイトだけのチームと言われたこともありますが、(技術面を高めていく間に)世界が狭くなったと思います。

RP:なでしこリーグやこれからの.WEリーグでは、特に小さい女の子に見てもらいたいなと感じます。そうすることで女子サッカーの裾野が広がっていけば、と思うのです。
エンゲルス監督:ドイツの女子サッカーで言いますと、観客もプレーする選手も少し減ったようです。来年から始まる.WEリーグが日本女子サッカーにとって、1つのステップになると思います。サッカーの楽しさは、男性も女性もまったく同じ。我々の仕事としてはサッカーの面白さ、楽しさを子供たちに伝えないといけないと思います。スポーツは、お金だけではありません。しかし、オリンピックに出るような選手を見ても、とてもレベルが高いものの、金銭的に十分な金額を受けていない印象があります。INAC神戸にもワールドカップを経験した選手はいますが、Jリーグと比べても、男性と女性の収入の差が大きすぎると感じます。オーストラリアのサッカー協会は男女の収入(試合出場料)を同じにしたそうですが、それはステップバイステップ。金額的なこと、そしてサッカーが面白くなったら、もっと子供たちはサッカーをやるようになると思います。ただ、お金を多く出すことで、すべてが良くなるというのは大きな間違いです。僕もプロサッカーがなかったら、ドイツで地元の監督をやっていたと思います。まずはサッカーの楽しさ、面白さをみんなで伝えることが大切です。そのためには(サッカーに関わる)コーチングスタッフは大事な存在であり、選手の気持ちも大切なのです。

(聞き手:レッズプレス!!ライター佐藤亮太)

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