今回は先に再開したお隣り、韓国のKリーグについて。吉崎エイジーニョさんの原稿をお届けします。
いよいよ、J1、J2はリーグ再開へ、J3は待望の開幕を迎えようとしている。今回の新型コロナウイルス感染症は、日本のみならず、世界中に大きな影響を与えた。サッカーシーンにも多大な変化を与え、各国が熱狂を取り戻すために一歩を踏み出している。ひと足先に、サッカーが動いた韓国・Kリーグは、公式戦再開前後にどんな様子だったのか。
『REDSPRESS EYES』として、お届けする。著作本のほかに、パク・チソン自伝『名もなき挑戦 世界最高峰にたどり着けた理由』の翻訳書などがある、ライターの吉崎エイジーニョ氏による寄稿だ。
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韓国・Kリーグが、無観客により試合を再開(リーグ戦開幕)して3週間になろうとしている。
今回は、日本からの『注目ポイント』の話を。
まずは、ここまでの経緯を簡単に振り返ろう。なぜ、コロナ禍にあって、韓国が日本より早く試合開催できたのか。
理由は『2月24日』にあった。
この時点で、Kリーグは『リーグ戦の無期限延期』を決めた。
Jリーグは違った。早期再開を目指し、細かに想定日程を発表していった。3月25日には「4月末からの段階的再開を目指す」としたが、4月8日には「5月中の再開を諦める」といった具合だ。
結局、ここで大きな違いが出た。
Kリーグは期限を定めなかったから、大胆に選手の「隔離政策」を採れた。3月17日から他クラブとの練習試合を禁止。また練習施設に入れる人数の制限、健康状態チェック、練習場の行き帰りのルート最小化をリクエストした。
これによって2つの成果が出た。
Kリーグ1、2すべてのクラブでの選手の感染者ゼロ。そしてトレーニング中断の必要なし。
4月22日に再開が発表になった後、他チームとの練習試合が許可された。そこから各クラブは『試運転』をして大会に臨んだというところだ。
コンディションとスタンド
これを眺めながら『日本にも伝えるべき』と感じる点は2つ。
・再開当初の選手のコンディションはやはり厳しい。見ていても体が重い。
・無観客スタンドのデコレーションに要注目。
要は「当初は試合再開の感動があっても、無観客試合を毎週見ていると、どうしても見飽きてしまう」という点だ。
前者については、周囲からはどうしようも出来ない。そして当然のごとく、試合を重ねていく中で、コンディション、試合勘は整っていく。Kリーグも5月8日の第1節のネット中継では「これを世界に流していいのか?」というような厳しい書き込みがあった。なにせ、新型コロナ時代の『世界初のプロリーグ試合開催』にはイングランド、ドイツをはじめとした、36カ国の放映権の買い手がついたのだ。
「練習を続けられていたのは良い点だったが、試合形式の練習は、チーム内の紅白戦に頼らざるを得なかった。選手はいわば『急に試合に駆り出された』という状況。開幕当初、体はどうみても重かったですよ」(現地サッカー専門ネットメディア記者)
5月17日の第2節あたりから「面白い」と評される試合が出てきた。昨季2位、ACLでも浦和と激しくしのぎを削った蔚山現代が、アウェイで人気クラブの水原三星に対し、3ー2の大逆転勝利。一時は0ー2とリードを許していたところからの逆転劇だった。
日本らしさは見られるか
筆者がここでより強調したいのは、「韓国に見るべき」ものは、無観客のスタンドをどう彩るのかにあるという点だ。
17日には、FCソウル 対 光州FC戦のスタンドで、ホームのソウル側がスタンドに性玩具として使われる女性の人形を置き、大きな批判を浴びる事件が起きた。21日にKリーグ側から1億ウォン(およそ1000万円)などの処罰が下されている。世界的企業たる「LGグループ」が親会社であるにもかかわらず、フロントが業者の売り込みに安易に乗ってしまったという事件だった。
一方、浦項スティーラースの取り組みは、大いに注目すべきところだ。
5月15日の『ハンギョレ新聞』は、スタジアム内の音声スイッチャーの存在が話題にした。
『サポーターの歓声』『拍手』『応援コール』などの音声をPC上に準備。これを状況に合わせ、場内に大音量で流すのだ。音声の種類には、なんと『軍人の声』もある。韓国の東海岸に接する浦項は、韓国軍海兵隊の拠点があることでも知られる。リフレッシュも兼ね、スタンドの一角に陣取り、独自のコールを繰り出す風景がこのスタジアムの風物詩にもなっている。細かい点までも再現しようとしているのだ。
このクラブに関してより重要な話は、『ゴール裏のデコレーション』だ。
開幕節では無観客のスタンドに、サポーターの持ち込んだ横断幕、マフラーなどが飾られ、話題となった。フロントスタッフが現地メディアの取材にこう答えている。
「試合前日にサポーターから『せめて横断幕などを持ち込みたい』と申し出がありました。クラブとしてもこれを快諾、サポーターがスタンドに入って設置したのです」
これはJリーグからでも大いに見るべきところだ。世界へ向けたリーグのオリジナリティの発信になる。何よりもスタンドで試合観戦が出来ないサポーターと選手の『重要な接点』となる。
もちろん、実施には感染への配慮が何よりも大切だ。前日にスタンドへの入場が許可されるのか。あるいはクラブスタッフが代理で持ち込み・設置を行うのか。J1からJ3まで、同じ状況で実現できるものでもない。
22日夕方、Jリーグのオンライン・ブリーフィングでこの点を質問した。「スタンドのデコレーションについては、現時点で何か考えを持っているのか」と。この時点で、村井満チェアマンは「クラブ側に無観客での開催可能性について伝えた」という段階であり、質問自体が時期尚早だった。それでも提言の意味を含め、聞いてみた。村井チェアマンの答えはこうだった。
「まだこれからです。(リーグ側の意向のみならず)、クラブ側やホームタウンの決定によるものも出てくるかと思います」
その後、5月27日には「無観客は2試合ほどで、7月11日からは観客が入っての試合になる」との報道も出た。果たして、どうなるだろうか。
いずれにせよ、「サポーターと選手の接点」となるものであり、スタンドの光景を世界に情報発信できれば、「ピンチをいくばくかのチャンスに変える」という話でもある。実施されるかどうか。その場合の方法はどうなるか。再開を待つ時間の論点の1つとして、注目したい点だ。
(ライター:吉崎エイジーニョ)