今回は開幕戦で浦和と対戦した湘南の山田直輝選手について、佐藤亮太さんの原稿をお届けします。
2月21日(金)BMWスタジアム。2020年のリーグ開幕戦となった湘南対浦和。
浦和の勝利で終わったが、どちらが勝ってもおかしくない紙一重の内容だった。この試合で湘南にはMF山田直輝がいた。湘南劣勢で迎えた65分には、意外な形と言えるヘディングで得点を決めた。
試合後、多くのカメラの前で山田は「勝点を取れず悔しい。相手選手の足が止まっていた時間だったので、同点に追いつけば必ず逆転できると思った。そうした時間に同点に追いつけたのは良かった。ただ、そのあとになかなか追加点が決まらず、逆にやられてしまった。そこはチームとしての反省点」と話した。
試合を通してみれば前に勢いよく出る湘南らしさが見られた一方、『内容で勝って、試合に負ける』といった面もあった。
ミックスゾーンで取材の輪が解けたあと、山田は「結果ですよ、結果!リーグはやっぱ結果ですよ」と語った。その表情からは悔しさと手ごたえとともに、チームをけん引する“湘南の10番”の責任と覚悟が改めて感じられた。
昨年の大晦日。山田の湘南への完全移籍が発表された。このリリースに「やっぱり」と感じたサポーターは多いはずだ。昨年7月下旬、期限付き移籍で湘南に加入したときから山田の気持ちは「完全移籍」だった。
それは浦和から発表されたコメントで表現されていた。
「浦和レッズは僕の愛するチームであることは変わりません。これからはみなさんと同じ一サポーターとして、応援していきます」
山田は当時をこう振り返る。「本当は浦和で試合に出て活躍したかったけど、自分の実力不足でできなかった。サッカー選手としてもうひと花咲かせたかった。自分を応援する人のため、湘南の力になるため、その気持ちが強かった」
そして、その思いは背番号10を背負うことで表現した。湘南加入当初、チームは上り調子だったが一変した。チョウ・キジェ監督はパワハラ疑惑が報道されてチームを去った。そして10月、追い打ちをかけるように台風19号により練習グラウンドが使用できなくなり、練習場を転々することになった。
黒星が先行して降格ラインが迫るなか、山田はこんな思いで戦った。「10番を背負って戦うことで絶対的な存在になりたい、そう思っていた。この気持ちはいまも変わらない。自分の存在意義を証明しなければならない」
16位で終わり、徳島とのプレーオフに進んだ湘南。このとき山田はケガで離脱し、祈るような思いで試合を見ていた。それでもチームはひとつにまとまり、J1残留を決めた。
「ホントにホッとした」。偽らざる山田の本心だ。
年が明けて1月中旬。キャンプを前に山田は治療とリハビリに励んでいた。ちょうどこの時、2020年のリーグ開幕戦のカードが発表され、相手は浦和となった。
「勝って浦和のゴール裏に行って挨拶がしたい。浦和は応援するチームだけど、いまはもう敵だから」と笑った。
そして迎えた開幕戦。この思惑は持ち越しとなったが、ゴールを決めた山田はホーム側ゴール裏を見ながら、クラブエンブレムを掴んだ。
その姿に湘南スタイルの体現者・背番号10山田直輝を見た。
(佐藤亮太)