集客のためのイベントについて、リポートしていただきました。
最近、浦和レッズがピッチ外で攻めている。
3月2日明治安田生命J1第2節、ホーム開幕戦。北海道コンサドーレ札幌戦に行われた浦和レッズOB永井雄一郎さん、手相芸人・島田秀平さんをゲストに迎えた『2019シーズンを占う!スペシャルトークショー』を行った。このイベントではキャプテン、監督、社長の3人の手相が占われ、また南門内ペデストリアンデッキ下ではファン・サポーターを対象にした占いコーナーが開かれた。
あくまでスタジアムは戦いの場所。レディアなどのマスコットをピッチに絶対に入れないなど独特の文化を守り続けた浦和ながら、スタジアム外ではこれまでなかった企画が行われた。
そうしたイベントは主に競技運営部とファンコミュニティ部による仕掛けだ。
「お客さんを楽しませる要素が埼スタにはまだまだ眠っている」そう話すのがファンコミュニティ部課長 白川潤さんだ。
昨年11月から配属された白川さんだが、スタジアムを訪れる人たちをいかに楽しませるか、その気持ちは以前からあり、部署は違えど、形にしてきた。
2010年、当時所属していた広報部でスポーツ新聞とのコラボ企画で当時FWエジミウソンにスナイパーの、MF山田暢久には幕末の志士 坂本龍馬の格好をさせ話題となった。
パートナー営業部在籍時の12年、ドイツ・ブンデスリーガのスタジアムを視察。試合中、イエローカードが出た際、オーロラビジョンに警備会社のコマーシャルが出るなど、演出を兼ねた広告を目にした。本場 ドイツで感じたサッカーの中に違和感なく入り込んでいるスタジアムでのエンターテインメント。
これに刺激を受けた白川さんは「レッズでもできないか?」と思案。実現させたのが、パートナー企業である文化シヤッターとのコラボレーション。GKが好セーブした時、オーロラビジョンに表示される「NICE SAVE!」。そして完封勝利した際の「NICE SHUT OUT!」の表示。本来の広告から結果的にスタジアムを盛り上げる演出となり、いまではすっかり埼スタの風景となった。当初、ファン・サポーターの反応が心配だったそうだが、「ここまで受け入れられるとは思わなかった」と振り返った。
14年には映画「We are REDS!THE MOVIE」を手掛けた。「選手・クラブのピッチ外での一面を見てもらい、ファン・サポーターの皆さまにより親近感を持って欲しかった」とのこと。その他にも今ではサッカー界でお馴染みとなったスタッツ。パートナー企業とコラボして目の前の試合のスタッツをビジョンに表示したことやコカ・コーラさんとコラボデザイン缶を作ったこともあった。
その他にも画策はしたものの実現できなかったものも多々あるとのこと。
試合の勝敗以外の楽しみをどう提供するか。アイデアを温めていた白川さんが昨年、ファンコミュニティ部課長として配属された。この部の本分とは何か。とりもなおさず、ファン・サポーターとの絆を強くすること、そして集客だ。
「勝った負けた含めたピッチで表現するサッカーはあくまでも強化部の仕事。私たちの仕事はお客さんに楽しんでもらうこと。最大のコンテンツがピッチで繰り広げられる熱い試合であるという前提が変わることはないが、サッカーにはどうしても勝った負けたがついてくるし、全ての試合で勝つことは不可能。もちろんそれを目指してはいるが…。我々の仕事はサッカー以外の部分も含めてファン・サポーターに楽しんでもらい、そしてもう一度、スタジアムに来たいと思ってもらうこと。全員は無理な話しだけど、ご来場者のなかの何人でも良いから楽しい時間を過ごしてもらい、もう一回、来てもらうこと、ここなんです。結果的にはそれがチームの後押しになり、ファン・サポーターが創り出して下さる雰囲気に繋がると思っています」
その気持ちはさきほど登場した「占い」企画の経緯にも表れている。
「シーズン開幕戦でどこまでチャレンジしたらいいのか迷うなか、すでにトークショーをやることは決まっていました。ただOBが出るだけでは今までと変わりはないので、新しい人たち、特に女性の方に来て楽しんでほしいと考えたとき、思い浮かんだのが占い。一方、ちょうどトークショーの出演候補者に手相占いの島田さんの名前が出たので、『じゃあ、占いをやってみようか』ということになりました」。
良い意味で浦和レッズらしくない企画だったが、あっという間に定員に達し、参加された方も占いに真剣に聞き入っていて楽しんでくれていたという。
そのなか、4月20日第8節神戸戦、続く5月3日 第10節磐田戦とホームゲーム2試合連続5万人を突破。4年半ぶりの達成だが、白川さんはあくまで冷静だ。
「神戸戦はあらかじめ多くの方が訪れることはわかっていたので、特に集客のプロモーションはしませんでした。次の磐田戦、『GoGoReds!デー』を行いました。(小中高校生を対象に全指定席種550円)シーズン日程が発表された際、どのタイミングがいいのか考えたとき、こどもの日に近く、お父さん・お母さんと一緒に来やすい試合に設定し、子供たちが喜ぶイベントをやろうとすぐに決めましました。興梠選手の平成最後のゴールやその記念グッズもあって、イベントをメディアが取り上げてくれました。その後押しもあり、想定以上に多くの方々スタジアムに来て下さいました。ただ、大事なのは・・・あの5万人の光景をどう感じたのか?もう一度、見たいと思うなら、課題は何か、そのためにはどう修正すれば良いのか。いや、もっと良い1日にもできたはずだと考えることなんです」。
さらに白川さんは「どうすれば、埼スタに来た人たちが楽しんでくれるか、そのことに思いめぐらすこと。それがすべての出発点だ。ただ、繰り返しになるが、最大のコンテンツがサポーターの方々が創り出して下さっているスタジアム内の緊迫した空気感、そして試合であることは変わることがない。サポーターとクラブが大切にしてきた歴史、文化は大切にしたい。一方で、特定の場所、特定の時間まではどこのスタジアムよりも楽しくしたい。そしてスタジアムの中に入れば、他のどこスタジアムでも感じることができない緊迫感。ワクワクとヒリヒリ。そんな二面性のある埼玉スタジアムにできれば」と続けた。
「最大のワクワクとヒリヒリを。そして言葉にならない何かを持って帰って欲しい」。
5万人の埼スタを。白川さんはきょうも考える。