中国サッカー、広州恒大を知る
多角的な視点で浦和レッズに迫るコラムコーナー「REDSPRESS EYES」。今回は、中国サッカー事情に詳しい松本忠之氏に、中国サッカーの「爆買いの目的」「広州恒大の強さ」「中国で浦和レッズはどう報道されているか」を聞きました。
「爆買い」の真相中国クラブを語る上で外せないテーマは何と言っても「爆買い」であろう。今冬の移籍市場で中国スーパーリーグが選手獲得に費やした金額は実に350億円以上にものぼるという。
この「爆買い」を象徴するものとして注目を集めたのが、上海申花の会長、ゾウ・ジュン氏の次の発言だ。
「欧州でプレーする有名選手を説得するのは簡単なことではない。だが、そこは金の問題だ。最終的には、金額が決定的な要因になり得る。われわれにはヨーロッパ基準の3倍の給料だって支払う能力がある」
いわゆる、「カネにものを言わせる」ということだが、果たして、中国の各クラブがこのような考え方のもとに爆買いを展開しているのだろうか?
答えは半分はイエスで、半分はノーだ。半分のイエスは、実は何も中国に限ったことではないだろう。金で解決できることが、世の中にはたくさんある。ただし、それをはっきりと公言することははばかられる。だから、普通は口にしないだけだ。しかし、世の中には、皆が躊躇(ちゅうちょ)するからこそ、あえて発言する人物がいる。ゾウ・ジュン氏はそのひとりなのである。日本にもかつて、「誤解を恐れずに言えば、人の心はお金で買えるのです」という発言をして、物議を醸し出した有名IT起業家がいた。
では、もう半分は何か。それは中国の「面子(メンツ)文化」である。
これは実に単純で、要するに、隣人が豪邸を建てたら、わが家も負けじと豪邸を建てる。隣人が高価な家具を取りそろえれば、わが家はそれを超す家具を取りそろえる……その繰り返しである。つまり、あそこのクラブが何十億で誰それを獲得した。ならば、わがクラブも負けじといくら出す。何? 今度はあっちのクラブがさらに高額を出した? ならばうちはさらに……ということだ。
「なんだ。単なる見栄(みえ)の張り合いか」と簡単に片付けてはいけない。なぜなら、この面子文化によって、実際に今冬のような「爆買い」が起こり、数々の有名選手が中国クラブへやってきたのだから。
「爆買い」の効果はどこに?爆買いによって有名選手を連れてくることは、当然のことながら、その第一義はチームの強化である。しかし、したたかな中国クラブのオーナーたちが、そのためだけに爆買いを遂行しているのかと聞かれれば、答えはノーである。では、強化以外にどんな効果があるのか。答えは2つある。
ひとつは宣伝とブランド戦略である。事実、日本でも爆買いぶりが報道された。欧州でも、南米でもしかりである。つまり、移籍市場に資金を投入し、マスコミに取り上げられることで宣伝効果と自社のブランディングを推進しているのである。中国企業が国外で知名度を上げるには、広告を投入するのが通常の戦略だが、プロサッカークラブを持つ企業の場合、世界的有名選手の獲得はチームの強化にもつながるし、世界中のマスコミが取り上げてくれる。その効果は確実に「爆買い」のひとつの目的である。
もうひとつは中国政府へのアピールである。習近平国家主席が大のサッカー好きであるのは有名な話で、その習主席が次々と腐敗摘発を行ってきたことも周知の事実である。中国という国は、どこまでいっても政府との関係がものをいう。それは、大企業になればなるほど顕著である。それゆえ、わがクラブ(企業)は、これだけサッカーに資金を投資しています。そして、そのニュースは世界各地で報道され、中国および中国企業の実力を天下に示していますよ、というアピールの意味も込められているのである。
先の面子文化とともに、本当にそんな理由で、これほどの大金を? と思われるかもしれないが、これが中国に10年以上住み、中国社会と中国ビジネスを肌で感じてきた私の実感なのである。
広州恒大の強さは中国人選手にありさて、いよいよ本題に入ろう。ACLで浦和レッズと対戦する広州恒大である。その強さはどこにあるのか。ちまたでは、どうしても「強力な助っ人外国人選手」と言われている。リッピが監督に就任した2012年からは、そこに「優秀な外国人監督」が加わった。
もちろん、それに間違いはないのだが、はっきり言うと、本当にそれだけなら中国国内リーグでは勝てても、アジアを制することはできまい。アジアの壁が低くないことは、Jリーグのクラブも実感しているはずだ。その証拠に、広州恒大に負けじと外国人選手を獲得してきた、ほかの中国クラブはなかなかACLでグループステージの壁を突破できない。
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