「REDSインタビュー」は、トップチームやレディース選手、監督、スタッフ、関係者などを掲載するコーナー。今回は2005年から2008年まで浦和レッズレディースでプレーし、その後、指導者として栃木サッカークラブレディースや山梨学院大学女子サッカー部監督、日本サッカー協会ナショナルトレセンコーチ、ユニバーシアード日本女子代表コーチを歴任し、今シーズンからWEリーグのAC長野パルセイロ・レディースでヘッドコーチを務める田代久美子氏にインタビューを行った。
(石田達也)
浦和レッズレディース戦では、後半に畳み掛けるような試合を
覚悟を持って新チームに移籍をするのは選手だけではない。
山梨学院大学女子サッカー部の創部から指揮を執り、関東大学女子サッカーリーグの3部から1部へとチームを昇格させ、2022年1月に行われた第30回全日本大学女子サッカー選手権では3位に導き、チームを急成長させた田代久美子氏が、2022年2月1日にAC長野パルセイロ・レディースのヘッドコーチに就任した。
WEリーグへと戦いの場を移し、チーム強化を図るため「チャレンジ」をする。個の成長と育成を大きな目標とし、監督の右腕となって上位進出を目指す。「勝てるチーム」を作り、信州からムーブメントを起こし、一人でも多くの日本女子代表選手を輩出するため指導にあたる。その思いに迫った。
写真:©2008 PARCEIRO
■勝つためにやることをやる
RP:AC長野のヘッドコーチに就任した経緯などを教えてもらってよろしいでしょうか?
田代:小笠原(唯志)監督が、山梨学院の練習や試合を見にいらして、話をさせてもらう機会も増え、ヘッドコーチの話をもらいました。日本に女子サッカーのプロリーグが立ち上がり、チャンスをいただき“やってみよう”と決意を固めました。
RP:この話をもらった時は、かなり悩んだのでしょうか?
田代:相当考えました。山梨学院で女子サッカー部を創部するにあたり、ご縁をいただき、日本一を目標に指導していたので、目標未達成のまま去るのは違うのではないかと思っていました。良い環境を与えてもらっていた中で、志半ばで去ることが本当にいいのか、山梨学院に対する感謝の気持ちもあるので本当に悩みました。
RP:その点に関しては大きな覚悟をもってのヘッドコーチ就任だったのですね。
田代:覚悟を持ってここに来ました。気負いはありませんが、自分が持っているものは限られていますし、それを精一杯やることと、与えられた環境の中で、小笠原監督の下で自分自身がやれることを増やしていくことが大事だと思っています。
RP:WEリーグのチームで、ヘッドコーチを置くチームも多くはない印象があります。
田代:ヘッドコーチだから「何をする」という役割は、はっきり決まっていませんが、役職にとらわれず監督と選手の間に入り、チームが勝つためにやれることをやるだけだと思っています。
RP:ヘッドコーチとして選手のどんなところを見て、指導をするのでしょうか?
田代:AC長野は若い選手が多く、まだまだ成長していかなければいけない選手が多いので、個を育成するためにも監督が求めることを選手に身に付けさせて、ストロングをどう伸ばし、生かしていくかを考えています。
RP:同性という部分では、選手も相談しやすい印象があります。
田代:同性のメリット、デメリットもあります。話しやすい部分もありますが、甘えを許さない部分もあったりするので(笑)。男性スタッフ、女性スタッフで上手くバランスを取っていけたらと思っています。
RP:現在、AC長野は8位(3勝4分6敗/4月9日現在)ですが、ここまでの課題と収穫について教えてください。
田代:私がヘッドコーチに就任し、リーグ後半戦では、まだ勝点3が取れていません。もどかしさがあります。個の成長をもっと図らなければいけません。現状を考え、勝点3を取るためには前線からのプレスや守備の部分はストロングだと思っていますし、これを得点につなげていけるかが課題です。そのためのトレーニングに着手しているところです。
RP:ヘッドコーチとして、手応えを感じている部分はありますか?
田代:プロの世界なので結果が大事だと思っています。結果を出せていないことに関しては責任を感じていますし、短期間の中で結果を出すことも難しいのですが、「もっとこうやれば上手くいくのでは」と監督に提案させてもらい、それをやらせてもらっている状態で、選手の考えを引き出しながら、試合後に映像を見せ、対話を増やしながら信頼関係を築いています。
RP:これまで指導者としてのキャリアを歩んできて、培ってきたものは、どんな部分でしょうか?
田代:栃木で5年、山梨学院で8年、13年間の指導者人生の中で、ユニバーシアード代表コーチやナショナルトレセンコーチ、山梨FAインストラクター等、年数以上の経験値を踏ませてもらったと感じています。サッカーを様々な角度から見て勉強することができました。しかし、今でも試行錯誤しながらやっています。 目の前の選手を育成する方法は1通りではないので。
RP:理想とする指導者像について聞かせてください。
田代:「勝つチーム」を作ること。育成年代では、世界で戦える個を育成すること、大学では、WEリーグで活躍する選手を輩出することを念頭に置いて指導していました。しかし、ほとんどの選手がプロになれる訳ではないので、「人間力の向上」は常に重要視してきました。プロの世界においては、結果を出すことが最重要だと思うので、マネジメントも含めて「勝つチーム」を作れる指導者になりたいです。
■サッカーの質を上げる
RP:さいたまレイナスFC、浦和レッズレディース時代、一番思い出に残るエピソードを教えてください。
田代:レイナスで2年プレーをしました。今と比べたら良い環境ではありませんでした。午前9時から午後5時まで働き、練習場所も転々としていましたが、田口(禎則)さんの熱のある指導で優勝。その後、浦和レッズレディースに移管され、環境も変わりました。当時は、かなりハードなトレーニングで「練習にいきたくないなと(笑)」。ただ、これだけやったら勝てるという体験をさせてもらいました。局面で数的有利を作るため徹底的に走りましたし、戦うことを刷り込まれましたね(笑)。良い環境を得るためには結果を出すこと。先に環境を与えてもらうのではなく、自分たちで結果を出して、良い環境を掴み取る。それが指導をする上でのベースの考え方になっています。
RP:当時から浦和で共にプレーし、現役選手としてプレーしているのはMF安藤梢選手のみでしょうか?
田代:安藤ぐらいですかね。でもGK池田咲紀子も。当時は中学生で、なでしこリーグにデビューしましたが、あの時ほど相手にシュートを打たせたらダメだと、必死で守ったことはありません(笑)。今は、咲紀子が日本女子代表に入って頑張っているのはうれしいですね。
RP:安藤選手との絡みなどで、何か思い出深いエピソードはありますか?
田代:天然キャラですしね、ここでは話せないことばかりですね(笑)。今も90分出場してボランチでも活躍してすごいと思いますね。
RP:当時のメンバーとは連絡を取り合っていますか?
田代:そうですね。ちょくちょくはしていますね。北本(綾子)[オルカ鴨川FC・GM]にも、AC長野に入る前に相談しましたね。でも、彼女も昔は、そんなキャラではなかったんですけどね(笑)。みんなGM、指導者、選手、スタッフになって、本当に刺激をもらいながらですし、仲間の頑張りは力になりますし、ありがたいですね。
RP:その中、23日(土)には長野Uスタジアムで浦和と対戦をしますが、楽しみな部分も多いのではないでしょうか?
田代:AC長野のホームというところで勝点を1ポイントでも稼ぎたいと思っていますが、守備を構築するところとワンチャンスを決めることの準備をしていきたいです。前回、浦和が大宮アルディージャVENTUSに逆転負けをしており、チャンスがない訳ではないと思うので、きっちり仕留めることがポイントになると思っています。
RP:それで言えば、先制点が大事になるのでしょうか?
田代:浦和はポジションも流動的にプレーするイメージですが、後半に足が止まる時間帯もあるので、こちらも足が止まるのではなく畳みかけるような部分があればと。総力戦になると思いますが監督とスタッフと策を練りたいですね(笑)。
RP:23日の試合が楽しみですね。
田代: はい。一矢報いたいと思うので(笑)。頑張りたいです!
RP:最後にWEリーグの発展に必要なもの、現場から見た率直な意見を教えてください。
田代:観客動員数が指標だと思うのですが、海外サッカーやレベルの高い試合を見る機会も増え、皆さんの目も肥えています。現場としてはサッカーの質を上げることが大事になります。まだ新型コロナウイルスの影響もありますが、地域に根付く活動をもっとしなければいけないと思っていますし、クラブもリーグもしっかり考えていかなければと思います。最近、UEFA女子チャンピオンズリーグの準決勝(バルセロナVSレアル・マドリード)のクラシコで9万人超の観客が入りました。女子サッカーであれだけの人数が入る現状があると考えた時に何があったのか知りたいですね。ここまで代表の結果が集客や人気に結びついてきた側面もあります。代表の質を上げるための役割もWEリーグにはあります。現場としてはサッカーの質を上げるために選手と共に頑張っていきたいと思います。